スカイ・クロラ

カウントダウン・オブ・「スカイ・クロラ」 count.2 [DVD]

カウントダウン・オブ・「スカイ・クロラ」 count.2 [DVD]

仕事が早くあがったので、ふらっと映画館に入って最後の回を観てきた。

「煙草を吸うのは、子どもが母親の乳首を吸うのと同じだ。母親から精神的に自立していないのだ」と聞いたことがあるが、登場人物の子どもたちがみんなして煙草を吸うのは、なんかそういう口唇期的で大人になれない子どもを象徴するアイテムなんだろうか。

まず比較的冷静な感想から。

比較的、冷静な感想

120分。映画館で観て良かった、とは思う。理由は後述。

そのものズバリはないが、セクシャルな表現は結構多い。また、グロいというほどの場面は少ないが、血の飛び散る場面がまったくないわけでもない。「未成年にしか見えない」登場人物の喫煙率が異常に高く、飲酒場面も数多くある。高校生以上の大人向けの映画だと思う。R15くらいか?

川井憲次の音楽に女声コーラスが流れて、榊原良子が喋り、犬がバウバウと走ると、それだけで押井守の映画だなあ、と思ってしまう。榊原良子竹中直人は別格だが、俳優陣がメインを張っている声優陣は比較的好演。二人とも脇役だけど、谷原章介栗山千明が特に良かった。栗山千明は出番が少ないのに印象は強く、実写ではもうできなくなってしまった「十代の役」でも、声優としてならやっていけるんじゃねーか、と思った。

豪華絢爛なCGやゴミゴミした日本の光景が多かった『イノセンス』や『攻殻』、『パトレイバー2』とはがらっとかわり、ヨーロッパ(イギリスの田舎とポーランドの都市?)を舞台にした落ち着いた雰囲気の光景が続く。なだらかな起伏が続く平原は、空気が乾燥していそうだ。

画集のような、一枚の大判の絵のような画面割りが多い。どの場面をとってきても、一枚の絵として観るのに耐えるような気がする。それでいて、アクション場面もそれなりにあり、小さな部分の緻密な動きや、音響効果からも大画面(映画館)向きの映画だと思った。

戦争と平和の関係論、戦って死ぬだけの作り物の子どもたち、永遠に繰り返される同じ夏の日、『紅の豚』のような複葉機の空中戦ではなく、複雑な『現代の』戦闘機による空中戦。と押井守っぽい要素もちりばめられている。

以下、ネタバレ多し。

やや冷静さを欠いた感想(ネタバレ多)

悪い映画じゃないんだけど、押井守ファンの人以外に「すげえから観ておけ」「観ないと損だぜ」とオススメするようなインパクトはなかった。『ビューティフルドリーマー』も『パトレイバー2』も『攻殻機動隊』も『イノセンス』も、原作知らなくても、押井守ファンでなくても「すげえから見ておけ」といいたい映画なのだけども、残念なことに『スカイクロラ』は非常によくできた映画ではあるものの、そうではなかった。押井守の代表作の一つには、たぶんならないと思う。押井守ファンの人はまあ、適当に観てください。『これって絵が綺麗で、押井守成分で味付けしたガンパレードマーチ』じゃね? というのが率直な感想でした。

俺は原作を知らないのだけども、なんで「いま」押井守が作った映画がこの映画なのかなあ。という疑問が最後まで抜けなかった。たとえば『崖の上のポニョ』は、手軽に父殺しをしてしまう我が息子の『ゲド戦記』を観た宮崎駿が作った『子どもへ向けた』映画であって、その成り立ちが非常に分かりやすい。押井守の場合も『ミニパト』などは、今さらパトレイバーで商売をしようとする連中への皮肉が効いていて良かったし、『パトレイバー』や『攻殻』は予言めいた作品だった。だけど、これは『ガンパレードマーチ』でしかないように見える。

おれは『ガンパレードマーチ』って、「大人になれない子ども」たちが、違う世界に住む大人たちの(娯楽の)ために、「無限に繰り返される戦争の夏」を繰り返すうちに自分たちの置かれた状況に気づき、その無限の繰り返しから抜け出す方法を探る、っていう話だと思っているんだが。この映画って、概ねそういう話だよなあ。

前線の空軍基地にやってくる、どこかぼーっとした、つかみ所のない主人公が基地のエースパイロットで、オッサンっぽい声で喋るルームメイトの親友は「大人の」女たちと遊ぶのが大好きな女好きで、上官で基地司令でヒロインなのはクーデレな感じのお嬢さんで、この人だけ××がいるのもそれっぽいし、「幼女と犬」とか、途中で出てくる情緒不安定な娘さんは壬生屋さんみたいだし、あの犬もきっと、あと三周くらい廻ったら立って喋るんじゃないだろうか。とか、観ていて思ってしまった。

イノセンス』のように華のないオジサンのコンビが主人公という映画に比べて、細い手足の少年少女が主人公であり、映像も見やすいし、話も分かりやすいんだけども、それを「いま」押井守が作る理由がよく分からない。別に、他の誰かが作ってもいいような気がする。

悪い映画じゃないんだけど。