「惨劇に挑め!」ダークナイト

ダークナイト 特別版 [DVD]

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ヒント:序盤で仲間を信じないとバッドエンド。


152分。バットマン映画。
万人にお勧めできるタイプの映画ではないが、非常にテンポがよく、緩急もついていて面白かった。前に見た「スカイクロラ」が、見ていて時間以上に長く感じた映画だったせいか、やけに短く感じる150分だった。

犯罪都市ゴッサムシティに現れた奇妙な犯罪者、ジョーカー。金銭を求めるわけでも、組織の首領になることを求めるわけでもなく、ただ秩序やモラルが崩壊する姿を見るためだけに惨劇を起こす男。彼が標的としたのは、ゴッサムシティの秩序と正義の象徴である市長、警察、検事、そしてバットマンだった。果たして、バットマンたちはジョーカーの引き起こす惨劇を止めることができるのか。

ジョーカーが、すごく狂ったキャラクターで良かった。そのひっくり返った笑い。おそらくテレビでは放映できないほど狂った、その怪人っぷりは一見の価値あり。ジョーカーのチャームポイントといえば切り裂かれた口だが、その口を切り裂かれた相手について話す度に変わっていたり、「ダイナマイト、火薬、ガソリン、オレの好きなモノの共通点が分かるか?」「安いことだ」とか。「オレは銃は嫌いだ。銃は速すぎるからな。ナイフのほうが、じっくり相手のことを理解できると思うんだ」とか。それでいて、マフィア組織を統率したり、共犯者を説得したりできそうだなあ、と納得させる程度に知性的。本作はジョーカーを見にいく映画だと思う。
全般に暗い雰囲気で統一された映画だった。バットマンの執事がジョークを言うのがかすかな救い。
カーチェイスが良かった。アクションは、微妙に攻殻機動隊SACっぽい(ビルから飛び降りるシーンが多い)なあと思ったが、スパイダーマンと違って特殊能力じゃなく金銭と科学技術に頼る姿はそれはそれで格好良かった。

ちなみに、ジョーカーの思い通りにならなかった部分もあるものの、バッドエンドです。あれは片方押したら、両方ふっとぶように細工されてるんだろうな、と思って見ていた。


そうか、18リットルでも建物ごとふっとぶんだから、あんだけガソリンがあったら跡形もないよなあ。みたいなことを見ながら思った。のは内緒だ。「ひぐらし」由来のミニ知識は先日の養子縁組の件で信頼がゆらいでいるからな。


あ、とくに15禁とかになってないのな。
というか、ですね。逆のこと書きますが、確かにジョーカーって、そんなにたいしたことやってないのですよ。別に数十人、数百人を狙った大量虐殺とか政府転覆とかを狙っているわけではなく、実体としてはただメイクが派手なだけの冴えない中年オヤジな訳ですし、筋肉バリバリな上に完全防弾のバッドマンスーツを着込んだバッドマンと違って、たぶん防弾チョッキも着てないんじゃないかと思うわけです。
でも、ジョーカーが「テレビで放送できないだろうな」と思ったのは、スパイダーマンの悪役とか、十年前にジムキャリーやシュワルツネガーが演じた悪役と違って、ジョーカーはいま、そのへんの街角にいそうだからです。それは渋谷かもしれないし、上野かもしれないし、新宿かもしれないけど、そのへんの街角にふらっと立って居かねない「理解不能な殺人者」だから、恐ろしいのです。
作中でジョーカーは「何を恐れる? オレの顔が不気味だからか?」みたいなことを言うんですが、本作ではジョーカーの引き裂かれた唇はあまり強調されて映されないこともあって、作中でも誰もそれ自体を恐れては居ません。人々が恐れているのはジョーカーの内面です。そして、それはジョーカー自身も言っているように、ある意味では哲学的でありつつも、基本的にはただの快楽殺人犯と大差がありません。

作中でバットマンのマスクって不自然なまでに俳優の顔にペッタリ張り付いて剥れないのですが、ジョーカーのメイクはどんどん汗で流れて崩れて行きます。そして、メイクの下からただの老けた中年男の顔が見えて来る。完璧なモラルを保ち、ジョーカーを殺すことを躊躇うバットマンは間違いなく実在しませんが、何の理由もなく惨劇をまき散らす男というのは、すぐその先の街角の暗闇に、ひょっとしたらナイフを持って立っているかもしれない。それが本作の怖さであって、それを娯楽映画の中に組み込んだのが、本作の過激さだと思います。


ともあれ面白かった。親しい同性の友人とご観賞ください。