SRCシナリオ案:ハートキャッチペルソナ!

蒼い蝶が視界を横切る。

オルフェウス!」

一面の闇の中で、ブレザーの制服を着た高校生の女子が叫ぶ。光とともに、彼女の背後に出現する竪琴を構えた巨大な怪物。そして、その光で姿があらわになる、一面の空を覆う闇そのもの。

「無駄だよ」

黄色いマフラーの青年が皮肉げに笑う。

「NYXは死そのものだ。誰も死に打ち勝てるものはいない。例え、君でも」

「仮に私が死んだとしても、それで世界が守れるのなら、私は悔やんだりしない」

さっきと違って【オルフェウス】出現時の残光があるので、その動作が見える。女子は拳銃をつかみ、自分のコメカミにその先端を向けると、ためらうことなく引き金を引いた。再び、女子の背後に、今度は数多くの棺を背負った無貌の怪物が出現する。それをみたマフラーの青年が、眉をひそめる。

タナトス、それは【死への渇望】。自らの犠牲をもって世界を救う、そんな君の言葉こそ、人が死に抗えないことを示している。君は、そうは思わないのかい?」

青年の言葉を無視し、無言で空を指し示す彼女。そして、空を覆う巨大な影へ【タナトス】が向かっていき・・・・・・ 


気がつくと、車にゆられていた。
それは、転校生花咲つぼみの夢。中学生の彼女は、鎌倉から引越しの車の中にいた。

「ようこそ、八十稲葉へ」

両親の運転する車を降りた彼女を、祖母が出迎える。そして彼女の八十稲葉での生活が始まった。それが、2011年4月のことだった。


丘の上の明堂学園高校は町を一望する場所にあって、町を代表する大型建築物だった。
成績は中の上から、上の下ぐらい。制服は学ランとセーラー服。

「おい、里中、ちょっと相談があるだけど、聞いてくれないか?」
田舎町で唯一のスーパー、ジュネスの息子は去年都会から転校してきた。一言でいえば、うざいキャラクターだ。
「あ、悪い。ちょっと今日は雪子と用事が・・・・」
「ごめん、千枝、今日は家の手伝いしないといけなくて」
「あ、そうなんだ。ははは」
「本当、ごめんね」
雪子は気を利かせようとしたわけではない。それは間違いない。
千枝の気分としては本当にやむなく、ジュネスの息子と千枝は二人で鮫川の土手を歩いていた。
「なに、花村?」
「お前、うちの学校に幽霊がでるってうわさ、知ってるか?」


鮫川の河川敷で、二組の二人組みが交差する。


「ねえねえ、つぼみって、マヨナカテレビのこと知ってる?」
「なんですか、それ?」
「あー、やっぱり知らないんだ。町のうわさだよ。
 雨の日、深夜十二時に電源の入ってないテレビを」
「夜中十二時なんて、起きていません。来海さんは、そんな時間までテレビを見てるんですか?」
「えー、たまに、だよ、たまに。あと、えりかでいいって!。わたしも、つぼみって呼ぶからさ」
「わ、わたしは、別に呼ばれたくありません」
「なんでー。わたしと、つぼみは友達じゃん!」
「今日あったばっかりで、ただのクラスメートです!」
 それでも、くじけないのが来海えりかです。
「雨の日の深夜十二時に電源の入ってないテレビを見ると、自分の運命の人がテレビに映るんだって!」


そして、深夜十二時。
テレビを見ていた一同の前で、その瞬間、時間が止まった。
空を、大地を、シャドウが這い寄る影時間の始まりである。


プリキュアになって、戦うクマーっ!」
両親も町の人も、同時にテレビをみていた二人以外は【象徴化】してしまい、シャドウから逃げ惑うつぼみとえりかの前に出現したのは、巨大なぬいぐるみだった。
「うわっ、変な人!」
えりかは正直だった。身長150センチのパンダか何かのぬいぐるみ。それにしては、色合いがサイケだ。そして、非常にうざい声でしゃべるそいつは、自分を妖精だと名乗った。
「く、クマは、人じゃないクマっ!」
そして、クマは自分で言った一言に落ち込んで、しばらく立ちなおらなかった。
「あ、あの、別に人じゃなくても、クマさんはクマさんでいいと思います」
「ありがとうクマ。つぼちゃんはやさしいクマ」
「・・・・・別に無理やり二文字に縮めなくてもいいと思うけど」
「えりちゃんは、まったく妖精に対してやさしくないクマ」


タナトスっ!」
棺桶を背負った怪物が、シャドウたちを蹴散らした。
高校には幽霊がでる。その噂どおり、影時間の校舎に、つぼみが夢でみた彼女がいた。
「あたしのことは、そうね。・・・・・・ハム子とでも呼んで」
「ハム子さん、ですか?」
「そうそう。そんな感じ」
「ま、またシャドウがくるクマっ!」
「何度でもくるといい。別にどうでもいいよ」
ハム子と名乗った彼女は、再び拳銃を自分のコメカミに突き当てる。
「この影時間が終わるまで、私は戦い続ける」


「どんなに君たちが力を尽くしたとしても、やはりNyxには勝てない」
「どんな力があろうとも、どんなに愛があろうとも、死は避けることができないからだ」
二年前と同じ台詞を綾時は悲しげにいった。
「あれが・・・・・ Nyx」
「なんだよ、あれ、あの馬鹿でかいものと、ハム子たちは戦ったのかよ」
大空を埋めるように広がるNyxに、呆然とする花村と千枝。
そこで一歩踏み出す影。
「笑っちゃうよね」
それはキュアマリン
「たった十四歳の美少女が、死そのものと戦うなんて」
「美少女は余計クマ」
 自分を取り戻したクマは、もう退かなかった。えりかはもとから、変わらなかった。
「じゃあ、ちょっと地球を救ってこよう」


「どうか、今度は一人でいかないでください」
 アイギス
「お前にまた死なれたら、こんなところまで出てきた俺が馬鹿みたいだろうが」
 荒垣。
「荒垣さんは、これまでとても必死でした」
アイギス。・・・・・そういうことは、俺がいうまでばらすな」
 帽子の位置を直しながら、荒垣は一歩を踏み出した。
「前回みたいに、見てるだけなんてごめんだ。今度は、どこまでもお前と一緒に行く」
「私も、一緒にいくのであります」


「かつてNyxをとめることができなかったのは、私が一人で戦おうとしたから」
「私一人の力で、すべてを守ろうとしたから」

「だから、今度は力を合わせましょう」

「当たり前だ。俺は、俺の町を守る」
「あたしは、自分の未来を作りたい」
「こんな美少女が、世界を救ってしまうなんて!」
「えりちゃんのそれは、まだまだ早いクマー」
「二度と、自分の好きな女を一人にはしない」
「私も、自分の大切な人たちと、一瞬でも一緒に歩みたいのであります」
「菜々子は、お兄ちゃんとずっと一緒にいたい」
「私の平穏な日々が、こんなことで終わるものか」

すべての人の愛とすべての人の死を願うこころの戦い。
すべての人の魂の詩、すべての人の魂の戦い。
ハートキャッチプリキュア、無限シルエット!」
「喰らえ、この、愛」


忘れないよ、駆け抜けた夜を。