ダークナイトライジングの感想
「いやー。面白かったねえ。キャットウーマンも格好良かったし、エンディングも盛りだくさんで思わず泣いちゃったよ……」
「でも、なんかすごくバットマンが孤独で可愛そうでした。男性陣はみんな友情にひびが入って離ればなれになっていくし、女子はみんなバットマンのことを『顔見知りの便利な兄ちゃん』ぐらいにしか思っていないし……その上、最後がアレですよ」
「うーん。でもほら、エンディングで色々救済してくれたじゃん」
「あれは本当なんでしょうか。私はてっきり、アルフレッドが耄碌してみた幻想なんじゃないかと……」
「じゃあ、序盤! 序盤は良かったでしょ。『ダークナイト』みたいで!」
「どっちかというと、全部含めて『ダークナイト』の二隻の船の場面の話みたいでしたけど、しかもあの話の方がずっと良かったのはどうかと思います」
「え、えーっ? でも、あれってバットマンのいないところで勝手に解決したじゃん。やっぱり今回みたいに主人公チームの活躍で物事が解決しないと……」
「うーん、主人公の関与ということではそうですが、あの話だと、市民の善意が物語を救うんですけど、今回はそうじゃないんです。全体的にバットマンはこの映画の中では根本的に他人を信じていません。『スパイダーマン2』とか見直してみてください。あのニューヨークの町中で、みんながスパイダーマンを応援してくれる的な展開は、今回まったくないんです」
「あー、プリキュアに力をーって、あれね。確かにこのバットマンにはそういうのはないね」
「だいたい、バットマンの守りたい『ゴッサムシティの市民』が作中に全く出てこないのはおかしいです。少なくとも、バットマンと没交渉なのはどうなんでしょう。バットマンのことを思ってくれるのは、みんな半分身内の警察官ばかりで、市民がバットマンのことを思う場面とか、バットマンが市民を助ける場面がほとんどないです。ヒャッハー的なモヒカン以外のごく普通の市民がベインの支配を歓迎しているのか、どうなのか、そこが全くわかりません。完全に『形而上の脳内市民』を守るために戦ってるようにしか見えないですよ、これ」
「でも、キャットウーマンには友達のゆりっぽい女子とか、若い警官には孤児院の子どもたちとの付き合いとかあったじゃん」
「ええ。ですから、この映画は本質的にはキャットウーマンとロ……若い警官の映画なのです。そのわりに、バットマンとかベインとかをまんべんなく話に含めようとしているから、160分もの大作になってしまったのです」
「ベインの話は結構よかったじゃん。こう、悲劇的で動機も共感できるし……」
「今さらビギンズの話の内容なんて覚えてましたか? ダークナイトならともかく」
「うーん、たしか、ラーズグリーズだっけ。ラーズグリーズが悪者で、渡辺謙なんだよね? こうなんか、アジア的な寺院みたいなところで、ブルースが修行していたら、師匠が悪いヤツだったみたいな」
「……まあ、そんな話なんですけど、だったらせめてそこは回想してくれないと」
「回想はいったらもっと長くなるじゃん。これ以上長かったら、いくら面白くても見切れないよ」
「ベインの話は話で良かったと思いますが、彼らが『ゴッサムシティを破壊したい』という話と、あの過去の経緯が全くリンクしてないのはどうかと思います。もっというと、過去の経緯とバットマンの持っている『引き籠もりの復活劇』というお話とほとんどリンクしてないのです」
「あー。私、てっきり、モーガン・フリーマンあたりが橋から吊されそうになって、バットマンが復讐のために戻っていくんだと思った」
「だいたい、『死ぬのは怖くない、とおもっているうちは本当は弱い』みたいなことを言われて改心したバットマンが最後にとる行動があれなのは、すごく納得できないです」
「むー」
「ようするに、バットマンの心の移り変わり、敵側の動機、舞台になるゴッサムシティの人々の表情、これが全部ちぐはぐなので、キャットウーマンと■ビンの所しか納得して見られないのです」
「でも、こう、バットマンが最初バイクでがーっとでてくるところとか、副本部長が制服で銃撃戦するところとか、おーっと盛り上がるじゃん。エンディングもキレイだし、キャットウーマンはやっぱりカッコイイよ」
「IMAXシアターでみたのですが、映像と音響は文句なしに素晴らしかったです。話の面が残念でした……」
「逆に『ダークナイト』がなんであれだけ面白かったのか、というと、『ダークナイトライジング』の悪いところが全部逆にいってるからだね」
「そうですね。バットマンとジョーカーが互いの存在意義として対極にあったので、両者がぶるかることにすごく納得感がありましたし、ジョーカーの背景が不明ということなので、ビギンズと今回に共通するよくわからない過去描写がでてこなかったのも良かったです。バットマンの守るべき市民として、『ダークナイト』ではレイチェルがいましたし、レイチェルがいなくなったあとはゴードンの息子とか、もっというとデントがいました。バットマンは市民を守るために戦い、市民もそれを応援していたわけです」
「まあなんというか、バットマンってたいして強くなさそうで、たとえばアイアンマンと戦ったら一発で負けそうなんだけど、その弱いバットマンが作中世界的には最強だったのも『ダークナイト』のバランスとしてよかったところかなあ」
「今回、本当に情けないですからね」
「絶対、キャットウーマンの方が強いとおもったよ」
「で、次、何見にいく?」
「次は『おおかみこどもの雨と雪』です」