図書室の海

図書室の海 (新潮文庫)

図書室の海 (新潮文庫)


冒頭は恩田陸『月の裏側』より。


『ファンタジーだと思えば良いんだ』といいながら、新城カズマはずっと論理をいじくっていたが、結局似ているようでも恩田陸新城カズマはまったく違う。
そんな短編集。恩田陸は短編の方が当たりが多いと思う。


表題作「図書室の海」はもう一つのサヨコの物語であるのに始まって、『麦の海に沈む果実』の前日譚、「ピクニックの準備」はそのものズバリ、他にも幼い頃目撃した海辺の殺人事件は『不安な童話』を連想させるし、そんな恩田陸の長編小説へリンクする短編を集めた短編集。


とりあえず、あー、そういえばそうだ、と思ったのは。


恩田陸の書く「進学校の伝統行事」は腐敗しないこと。
そもそも「六番目の小夜子からして、そういう前提の上に成り立っている話なのだが、新城カズマの世界観では生徒たちが代々裏技を伝達しつづけ、目端のきく学生たちは新しい抜け道の開発に余念がないのにくらべ、恩田陸の世界では「伝統」が如何に生きていることか。
二人とも、小説好きなのは、続けて本を読むとよくわかるんだけどなー。


あと、同じくらいの賢さの登場人物が知恵を巡らせる方向性が違うな。
恩田陸のいう「賢い高校生」は自分がどう発言すると相手がどう思うのか、を第一に考えて行動するのだが、新城カズマの高校生たちはそんなことはしない。
なにしろ、ただでさえ前に立っている同級生の考えていることどころか、自分が本当に考えていることだってわからないのだから。


ノスタルジーに関する考え方はもちろん違う。
短編集の最後を飾る「ノスタルジア」でかかれる恩田陸の世界観と、せいぜいが携帯電話の着信音くらいしか過去を書かない新城カズマの世界観はまったく異なるように思われる。


それなのに、『サマー/タイム/トラベラー』と『球形の季節』が似ていることが、またいいんだよなあ。たぶん。