評伝シャア・アズナブル(下)

評伝シャア・アズナブル 《赤い彗星》の軌跡 下巻 (KCピ-ス)

評伝シャア・アズナブル 《赤い彗星》の軌跡 下巻 (KCピ-ス)

グリプス戦役アムロと再会してから、アクシズ落としまでのシャアの後半生。一時間強で読み終えたが面白かった。

「二流の能力と、一流の見識」。アムロに劣るNT能力しか持たないにも関わらず、世界全体のことを考えることができたシャア。ジオンの息子という『公』と、赤い彗星である『私』との間での葛藤……から、『ジオンの赤い彗星』も徐々に『公』の存在になっていってしまい、そこから逃れるために『公』以外の何者でもない『クワトロ・バジーナ』という仮面をかぶるが、そのために『私』の部分を求めたレコアに去られ、再会したハマーンからは一貫して私人「シャア」として呼ばれることになる。そのあとは『ジオンの息子』『宇宙移民者の守護者』という『公』の存在として復帰するが、ここでも自らはそれを『道化』と呼び、周囲からも『大佐は総帥らしくみせるためにナナイとつきあっている』みたいな話をされる二重性を持ち続けた。という話。
グリプス戦役後半部分では、「一流の能力と、一流の見識」を持ちながら『理』にはしりすぎ、『私』の部分をまったく持たないがために『情』に生きたカミーユに撃たれたシロッコ、能力に恵まれたにも関わらず『情』に溺れて『公』を動かし、確固とした見識を示すことができなかったがために組織を空中分解させてしまうハマーンとシャアを対比する描き方。旧来ジャミトフの主張とされてきたもの*1は、実質的にはシロッコの主張であり、それは本質的にエゥーゴと大差がなく、グリプス戦役スペースノイド同士の内輪もめである、という読み解きは、見ていてすっきりしなかった『Z』をすごくわかりやすくしてくれた。
ハマーンネオジオンが、「ネオ」と名乗りながら「ザビ家によるジオン公国」の形式を守り続けるしかなかったのに対して、シャアのネオジオンは旧来のザビ家を否定することから始まっており、15年にわたって地球連邦にたいするアンチテーゼであったジオン公国を総括することができた。というのは面白いまとめ方だと思う。

シャアの「サボテンが花をつけている」「これが若さか」とか、「アムロ=レイは優しさがニュータイプの武器だと勘違いをしている男です」など、意図が読みにくい台詞の意図を、作者なりの解釈で解説してあるところがけっこう面白かった。

*1:地球上の人類を死滅させて、コロニー中心の世界を作り上げる