エンドゲーム 常野物語

エンド・ゲーム―常野物語 (集英社文庫)

エンド・ゲーム―常野物語 (集英社文庫)

「悪夢」をテーマとしたサスペンス。
父親が失踪して十年余り、仕事の出張先で突然母が倒れたという知らせを聞き、娘が駆けつけてみると、母親はただ昏々と眠り続けていた。親子は「相手を裏返す」というESP的(?)な特殊な力をもった「常野」の一族であり、父の失踪以来、「敵」と戦いながら、怯えながら暮らしていた。母が残したメモを頼りに、同じような力をもつ「火浦」という男とともに、娘は母親の夢の中へと入り込んでいく。
しかし、そこは子どもの頃からのトラウマや記憶が複雑に堆積する、不条理な悪夢そのままの世界だった。娘も火浦も、自分たちの子どもの頃からの悪夢を突き付けられ、恐怖に惑いながら、夢の中へ夢の中へと入り込んでいく。

内容を知らずに作者名だけで買ったかど、悪夢の世界の情景描写にせよ、そこでおこる脈絡のないグロテスクな悪夢なイベントの数々にせよ、「ゆめにっき」だなあ。これ。なんでこう、「ゆめにっき」にはまっているときにタイムリーに本を手に取るんだろう。むしろ「ゆめにっき」の方が恩田陸のホラー・サスペンスの作風に近いような気さえした。これまで、恩田陸のサスペンスはオチが唐突で、それまでクトゥルフ神話のような世界の裏側を覗き込んでいたような気分だったのが、オチによって突然なんか卑小な現実に引き戻されるので、最後のほうになるとそれまで広がった気分が萎んじゃうんだけども、本作は「悪夢の世界」と先に断られているので、最後まで不条理感が続いて楽しめた。「夢」というのは本人だけの世界観で構成されているんで、現実と違って夾雑物がない純粋な悪意であるとか、絶望感がでるんだなあ。現実は現実の生活や作業に紛れてしまうので、心の底にある悪意や絶望と向き合わなくていいのだが、夢のなかではそれらから逃れる術がなくて、ストレートに突き付けられるからこそ、恐ろしいんだろうなあ。いやあ「ゆめにっき」は本当に恐ろしいですね。