ライオンハート

ライオンハート (新潮文庫)

ライオンハート (新潮文庫)


解説の梶尾真治がいうとおり、本書を梶尾真治が書いたといっても、誰も疑わないだろう。
だって、時を超えたラブストーリーなんですもの。


1978年、一人の老歴史学者エドワード=ネイサンが失踪した。
彼の家に残された年代も題材も異なる五枚の絵と、「E to E」と刺繍のされたハンカチ。


エピソードは、エドワードの残した5枚の絵をそれぞれの章の題材としており、絵が描かれた17世紀から20世紀中葉までのイギリス、およびフランス、アメリカを舞台として進んでいく。


最初のエピソード「エアハート嬢の到着を待つ人々」は、梶尾真治よりも梶尾真治的な導入部だ。


大戦間時代、二十代のエドワードはリンドバーグの娘の到着を待つ群衆の中に紛れ込んでいた。両親を失い、莫大な借金を抱え、大学をやめた彼は自殺をする場を求めて、ふらふらと群衆の中をふらついていた。
一方、ローティーンの娘、エリザベスは咳き込みながらエドワードを捜していた。
ついにエドワードを見つけたエリザベスは、エドワードに駆け寄るが、エドワードは彼女が誰だかわからない。怪訝な顔をするエドワードに、エリザベスは「あなたは、私に会うのが初めてなのね」と謎めいた言葉を口にする。


後書きで梶尾真治もいうとおり、直前に「美亜に贈る真珠」を読んでいてよかった。
偶然とはいえ、読む順番として正解だったと思う。


梶尾真治を離れるならば、北村薫の「リセット」に似ている。
時間を超えて、繰り返し繰り返し出会う恋人たち。


恩田陸の著作として、梶尾真治を連想させるのは、エピソードよりむしろエリザベスが、あくまでエドワードにとって理想の女性の姿そのままであることではないかと思う。
津村小夜子だって水野理瀬だって、ほかの恩田陸の小説に登場する女性陣は「美人で賢いけど不安定なヒロイン候補」か「天然っぽい傍観者」のどっちかだった気がする。
むしろ、恩田陸の小説で常に理想的な性格をもつのは老人か、男子学生だったよーな。


もっとも、本著が梶尾真治北村薫の小説のコピーというわけではない。
北村薫梶尾真治が日本を舞台にしてエピソードをつづったのに対して、恩田陸がイギリスを舞台にして、なおかつ女性であるエリザベスの視点をたびたび使うのは、彼我の性別と嗜好の違いだろうとは思うが、その点には独自性を感じる。


そして、なにより恩田陸っぽくないのは、本書がちゃんと完結していることであろう。
なに、完結しているように見えるだけで、謎解きは「六番目の小夜子」と大して変わってないと仰るか。まあ、それは、なんだ。その。