悪霊の神々編

宇宙間隙の発見

キメラが地上の二点間を瞬間転移することは古来より知られていた。
空に飛ったキメラがかき消える、あるいは虚空から出現する光景は、
世界中で見られる光景だった。
そして、キメラ本体でなく、その翼があれば人間にも転移が可能だった。
*1


瞬間転移には、その転移先を克明にイメージしなければならなかったため、
一度立ち寄ったことのある場所へしか転移することができない。
また、転移するときには身につけているものしか運ぶことができないため、
大規模な交易はルプガナ商船団などの船団が担っていた。


キメラのつばさは非常に小さなもので、実際にそれで空を飛ぶわけではない。
我々は一瞬視界が揺らぐことと、次の瞬間には自分が思い浮かべた場所に
たっていること、つばさが光りを失って二度と転移できなくなることを、
知っているに過ぎなかった。


ローラ姫が逝去したそのころ、ベラヌールに住む一人の神学生が新たな理論を
発表し、学会に大きな衝撃を与えた。
それが「宇宙間隙仮説」である。


「宇宙間隙仮説」をかいつまんで説明すると、次のような説である。
キメラのつばさを使用すると、我々はこの世界と別の世界の狭間(間隙)に、
いったん移動し、つぎに再びこの間隙からこの世界へと戻ってくる。
このとき、間隙は我々の世界よりも上位の次元で構成されているため、
戻る場所さえ指定できればまったく時間をかけずに、元の世界の別の地点へ
戻ることができる。


この仮説は発表当初は学会からほぼ完全に無視されていたが、
数年後にこの神学生は仮説に基づいて「旅の扉」を試作し、
ベラヌールの北の祠から、植民地ペルポイの東の島への転移実験に成功。
その後はベラヌール教会の全面的な支援のもとに、「旅の扉」のネットワークが
世界全土へ張り巡らされれていくことになる。


この神学生の名前を、ハーゴンという。

*1:その名の通り、「キメラ」は元来は研究のすえ生み出された合成生物のはずだが、何時の時代の何者がそれを成したのか、また何のために転移能力を持たせたかは不明である