DQⅠ→Ⅱ・後編

大神官ハーゴン


最初の「旅の扉」完成から三十年の時がたった。
ハーゴンの指導の元、神官たちは世界全土へ散らばって旅の扉の建設を続けた。


ベラヌール教会との関係が薄いローレシア王国との建設交渉は難航したが、
ローレシア城内で実際に南国ザハンとの間の転移を実演してみせることで、
ローレシア北東の祠と、ローラの門への旅の扉設置と、リリザの街への
教会建設を認めさせることに成功した。


余談であるが、このときローレシアに布教に訪れた神官たちは、
後年の戦役の際には全員捕縛され、城の地下に捕らえられたという。
さすがに長年にわたって布教活動をしていた神官たちを反逆罪には問えず、
罪名は武器である「いかずちのつえ」を大量に保持していたことだった。


ついにベラヌール教会からロンダルキア高地までの直通の旅の扉が建設され、
旅の扉の乗換えが必要とはいえ、世界は急速に一体化したといっていいだろう。
もっとも、こうしてできあがったネットワークは戦時にはそれぞれの陣営が
封鎖したため、ローレシア軍がすべてを再占領するまでは有効に活用されなかったが。


ハーゴンはこうした功績を認められ、ベラヌール教会の最高位である大神官の
座にまで上り詰めた。
戦争が始まって、邪教の使いとされてからも彼が「大神官」と呼ばれたのは、
それが権威あるベラヌール教会から与えられた正式な階位だからである。


旅の扉建設に半生を費やしたハーゴンも、大神官となってからはベラヌール
とどまって教会での活動に力を注ぎ、十年にわたって教会の指導者として活躍。
のち、後進に席を譲り、旅の扉で人里離れたロンダルキアへ隠居した。

狂気


ロンダルキアへ引退した時点で、ハーゴンはすでに七十歳を迎えていた。
彼の研究はすでに大成しており、彼が成すべき「宇宙間隙」に関する研究は
すでにないように、周囲からは思われていた。


しかし、ハーゴンロンダルキアで、最後の研究を開始した。
それは、「カミ」を実体をもった形で現出させることである。


彼は精霊ルビスではなく、「カミ」に仕える神官であった。
ルビスが人間に近い姿をみせ、ときには人間に直接語りかけている。
しかしながら、ルビスは精霊に過ぎず、「カミ」はその姿を現していない。


「カミ」はいずこにあるのか?
ハーゴンは、それが「間隙」だと考えた。
「間隙」は我らの世界より高次の次元であり、多数ある世界と世界の狭間に
存在する「スキマ」とハーゴン自身も考えていたが、実はそれこそが、
数々の神話に語られているカミの住む世界ではないのだろうか?


ハーゴンロンダルキア高原の西に巨大な実験装置を築き、
経路がクラインの壺のようになった行き先のない旅の扉を作り上げた。
旅の扉では通常はすぐにこの世界へ引き戻されるが、行き先のないこの扉では
引き戻されることなく「間隙」のなかに身を置くことができた。


そこで、ハーゴンが何を見つけたのか知るものはない。
一説によれば、彼は「間隙宇宙」の中心で沸き立つ暗闇の雲を見つけたとも、
異形の怪物を見つけて正気を失ったとも言われている。


その存在は世界のスキマに存在したため、世界全土に瞬間転移する事ができた。
ロンダルキア、ムーンブルグのほか、デルコンダルに出現したという伝承も
その信憑性は眉唾ながら残っている。


その存在には名前はなかったが、ハーゴンは「シドー」と名付け、
彼の発見した「カミ」として、ロンダルキアに「シドー」を祀る教団を
作り上げた。