ニュートンズ・ウェイク

ニュートンズ・ウェイク (ハヤカワ文庫SF)

ニュートンズ・ウェイク (ハヤカワ文庫SF)

SF小説。現代風スペースオペラ。けっこう面白かった。

アメリカとユーロ圏の戦争と、人工知能の反乱によって起きた地球の滅亡から数百年。はるかに進んだ知性を手に入れた機械たちは「どこか」へ去り、人類はその遺産を手に、いくつかのグループにわかれ、宇宙に広がっていた。テラフォーミングを繰り広げるアメリカ人の農夫アメリカ・オフライン。機械の残した遺産を研究する日本・中国・インド人の啓蒙騎士団。そして、どこからか主体的に復活を遂げた共産主義者DK(デモクラティック・なんとか)。その三者の間でワームホール「糸巻き」を管理する実戦考古学者「カーライル家」。
カーライル家の娘、ルシンダが初めてのリーダー任務で訪れた惑星は、これまで三百年にわたって他の人類文明から隔絶した人類たちが一つの社会を作り上げていた。一瞬の戦いのあとで、捕虜となったミリンダは〜。

DKの「変さ」はまことに日本人向きのネタだと思うだけど、これってちゃんとヨーロッパで受けたのかなあ。ブレジネフネタを理解して感動する某国人がそんなに大勢いるようには思えないけど。ぽっと出てきたキャラクターが、ちゃんと見せ場をもって活躍するのがスペオペとしては良かった。主人公の女の子が交易っていいな、という終わり方で、交易民族となった未来のイギリス人のことを思うと、日本人がアーヴを想像したように、イギリス人は交易に生きるカーライル家を生み出したんだろーか。というか、途中からなんども『星界の紋章』シリーズのことを連想してしまった。「血に飢えたカーライル」という表現や、「あたしはカーライルだ」という自意識満点の決めぜりふ。他の恒星間文明から孤立していた惑星がカーライル家によって発見された事で巻き起こる戦争、と星界っぽい要素がてんこ盛りだからだろーか。

SF的なガジェットとしては、周回する宇宙が証明された世界とか、バックアップからの復活とか、大変このうえない。というか、「バックアップがあるから」といって死をおそれずに戦う主人公たちだけれども、そんなバックアップから復活しても、それって本人にはなんの慰めにもならない気がするんだけどなあ。客観的に見た場合に生き残ってるだけで、本人にとっては死ぬことに変わりないんだから。作中、本人の遺伝子とかと全く無縁に、記録やファンの書いた伝記だけをもとにして人格が再生された二人のミュージシャンが前向きで元気だったのが良かった。