夕凪の街 桜の国

夕凪の街 桜の国 [DVD]

夕凪の街 桜の国 [DVD]

118分。
漫画を読んで泣いたあと映像化されるのは知っていた。でも、この漫画を空気感を含めて、あの男前な女優田中麗奈主演で映像化するのはムリだろうな、と思っていた。なので、かなり恐々と見始めた。

皆実役が漫画のイメージに近い麻生久美子なこともあり、意外とそんなに外していない。おそらく漫画を台詞や画面を含めて、ほぼそのまま映像化したからだろう。映像的な面では、漫画のイメージがあまり崩れないまま、映画になっている。

ただし、いくつか大きく場面や設定が変わっている。皆実には漫画版では姉がいるのだが、居ないことになっていたり、登場人物の年齢設定が3年ずれていたり(漫画から映画化まで3年間があったため)、漫画「夕凪の街」では皆実と顔を会わせられなかった旭が出てきたりしている。ただし、旭が「夕凪の街」から登場していた方が、後半の「桜の国」との繋がりが強くなるので、これはよい変更だと思う。

ちょっと引っかかった点。例えば皆実の戦争の頃についての回想で、漫画では皆実は助けを求めるクラスメートを見殺しにしたり、姉と一緒に家族を捜して歩く途中、死体から履き物を盗ったり、死体の流れる川に瓦礫を投げたりしていて、そうした行為に対する後ろめたさや罪の意識を含めて「私は生きていていいだろうか、幸せになっていいんだろうか」と回想しているが、映画版では同じ場面での回想が「被爆した妹を背負って家族を捜して歩いたが、妹は死んでしまった」というものにさし変わっており、「死者に対する」後ろめたさの描写は大幅に薄れている。

追記)ちょっとずれてるけど、下記の記事読んでてちょっと納得。映画版は皆実がシンプルな「無垢な被害者」として強調されすぎて、漫画版にあった「被害者であることは確かなのだけど、あの日に自分が見捨てた人たちと自分で何が違うのか。私は死なずに生きていていいのだろうか」と思い悩む、複雑な心理が書かれていない気がする。
打越のいう「生きとってくれてありがとう」という台詞も、漫画では上記のように思い悩む皆実の存在を肯定するの言葉なのだけども、映画だと打越と皆実の恋愛感情の発露みたいになってて、なんだかえらくシンプルになってしまったなあ、という感慨を抱いた。
http://d.hatena.ne.jp/hokusyu/20080828/p1

(さらに追記) しまった。アドレスを書いたら意図せずトラックバックになってしまった。


アレンジされた部分はちょっと台詞回しなどが浮いているような気がする。例えば、漫画では「げんばく」と登場人物が台詞として話す場面は3場面ほどしか出てこず、それぞれの人物は通して一回くらいずつしか言わないが、映画では何度も出てくる。言葉に出すと強すぎると思うのだが。

あと、無粋を承知でいうと、皆実が麻生久美子。七波が田中麗奈と、まったくルックスが違うのに、漫画の台詞のまま「似ている」という父親(堺正章)の話がなんか浮いてしまっているのが残念。