地球連邦政府は実は腐敗していないのではないか?

先日、実は地球連邦政府は腐敗してなかったんじゃないか、我々は三十年近く反地球連邦活動のプロパガンダに騙されていたんじゃないか、という気がしてきた。

ガンダムという作品のなかで「地球連邦は腐敗している」というのは一種の定説である。

しかし、よく考えてみてほしい。そもそも、連邦政府の高官が直接的に賄賂をもらって相手に便宜を図ったり、明らかに怠慢をしていた様子が具体的に描かれた作品があるだろうか。ゴップはホワイトベースを軍の組織に取り込み、ワイアットはテロ組織内に内通者を作って交渉を行い、ジャミトフは対ジオン残党、テロ組織に対するエリート部隊を創設して対案を練っているではないか?。後々の時代でも、ムバラクは陣頭に立って指揮をしているし、アデナウアー=パラヤだってちゃんと交渉の席に座っている。次に考えてほしい、「地球連邦は腐敗している」といっていたのは、誰だったのか?

「地球連邦政府は腐敗している」といっていたのは、例えばギレン=ザビであり、シャア=アズナブルであり、ハマーン=カーンではなかったか? あるいは、エゥーゴという反地球連邦活動組織や、ジャーナリストたちではなかったか? 彼らは何者か、もう一度考えてほしい。彼らこそは連邦を打倒する側の人間たちであり、彼らが「新秩序」を構築するために必要な免罪符こそが「地球連邦は腐敗しており、すでに人類を統治する能力がない」というプロパガンダではないだろうか。

もちろん、連邦内部にも「ジャブローモグラ」を揶揄するような発言をする登場人物はいただろう。だが、考えてみてほしいのは、あなたが会社員の場合、自分の会社のスタッフ部門の社員に対して「給料泥棒」「現場の苦労も知らずに無理難題を押し付けてくる連中」といった感想を述べることはないだろうか。そして、それをもって「あなたの会社は腐敗している」といえるだろうか?

また、多くの人が「Ζガンダム」における強硬派「ティターンズ」を地球連邦の腐敗だといいながら、同じ口で「ガンダムΖΖ」や「逆襲のシャア」以降のジオンやクロスボーンバンガードに融和的な連邦の姿勢を腐敗だというのは、あまりにご都合主義ではないだろうか。どう考えても人類の半分を失った一年戦争と自らが反動的な「ティターンズ」を生み出した反省から学んだ連邦政府は、敵対組織に対して融和的な姿勢を示すようになったのではないか。

ファイアーエムブレムというゲームがある。自国をドルーア帝国に「侵略」されたマルス王子は、諸勢力を糾合して「同盟軍」を組織して自国を奪還し、さらに加えてドルーア帝国の傘下から諸国を「解放」するために、「解放軍」を名乗ってドルーア帝国の帝都まで進軍して、「解放軍」として自らの派閥の有力者を「解放」した諸国の統治者として送り込み、それをもって自らを正義と語る。

「地球連邦政府は腐敗しており、それを倒して新秩序を作るのは正義の行いである」というのは、常に地球連邦政府の敵対者によって語られてきたロジックであり、それにたいして地球連邦側から「連邦は腐敗していない」と語られることは皆無であった。それゆえに、私たちは三十年近く、地球連邦は腐敗していると思い込んでいたのではないだろうか。

地球連邦の実態は、基本的には職務に熱心な軍人と官僚と警察組織からなるそれなりの統治機構をもつ組織であり、穏健で生真面目な彼らの多くは外敵の言葉に反論したりしなかっただけではないか。近年の「日本国の役人は腐敗している」という言葉を聴くたびに、そう思えて仕方がないのである。(社会派)