ブリジット=クロフォードの日記 -Almagest Overture 3rd-

523年47期

私はブリジット=クロフォード大佐、19歳。
ブラウローゼ公国、ベッケンバウアー艦隊副官である。
上官であるベッケンバウアー大将はブラウローゼ公国軍で最高の地位にある軍人で、どうやら私に目をかけてくれているようだ。昨年のメガリス行政区との戦い以来、多くの場合、戦場では私の判断を参考にしてくれている。士官してから例外的な期間の短さで私が大佐となれたのも、大将のおかげだと思う。

今日、惑星エッダを占領し、『エストック作戦』が完了した。
エストック』とはよくいったもので、我々はアルファケンタウリ星系に存在する地球統一連邦の領土を二分する鋭くとがった針のような存在だ。地球連邦がこれまでセレスティア・オリンピアと戦っていた前線は孤立し、我々に対応する戦力は未だ現れていない。

ゲートキーパー要塞からエッダに至る領域では、ほぼ地球連邦軍の反撃を被らなかった。噂の大艦隊は、ほとんどがセレスティア、オリンピアとの戦闘のためにアルファケンタウリの「南側」に集結していたらしい。この時期を選ぶために、半年近く雌伏していた我らが公王どのの我慢強さと腹黒さはたいした物だ。

524年02期

私は、20歳にして准将となった。グッドホープ攻略での功績が認められたのだ。
今期から、我々はついに『ソードブレイク作戦』を実施する。

昨年末に公王はイリアス式典へ出席しないことを表明したが、それがきっかけで各国から一斉に避難を浴びた。これまで同盟関係にあった、オリンピア連合、イザナミ皇国、W.L.T.C.は同盟の破棄を宣告してきた。地球連邦軍は大規模な艦隊を整え、我々に対応してきた。

だが、公王はあっさりとオリンピアイザナミとの関係回復に成功した。多少の金銭がきっかけで、すぐに従来の友好関係まで回復したのは驚きだった。それに対して、ブラウローゼと同じくロゼッタ星系にあるWLTCは遠征中の内憂になりえたため、我々が先手を打って制圧に向かった。天才マチス・フライヤーはフリーダムトーチ共和国に請われ、遠征艦隊を率いてオリンピアと戦っていたため、本国を留守にしていたため、瞬く間に惑星グッドホープは陥落した。

そして、我々ブラウローゼ艦隊は、ついにアルファケンタウリ星系で地球連邦軍との艦隊決戦を行う。これが『ソードブレイク』作戦である。地球連邦軍の大艦隊を屠り、その経済力の源泉となっている星々を攻略することが、この作戦の目的である。

524年12期

『ソードブレイク』作戦は成功し、超弩級戦艦からなる地球連邦軍艦隊はほぼ解体した。彼らの経済力は急速に衰え、国庫は底をついた。オデュッセイアヴェーダイリアスアガスティアという四つの惑星を巡り、我々と彼らは十回におよぶ会戦を行ったが、地球連邦軍はキョ少将のような名将をすべてオリンピアセレスティアとの前線にはりつけており、我々が勝利することは容易だった。

公国はセレスティア共和国と和平し、アプサラス特別自治区との関係を改善した。主義主張の異なるこれらの国との平和は長くは続かないだろうが、最後の作戦のためには必要なことだ。地球連邦軍はついにアルファケンタウリ星系から撤退した。

524年24期

地球統一連邦への数度にわたる降伏勧告はすべて無視され、やむなく我々は文明の発祥の地を武力制圧するに至った。連邦の士官が数名ブラウローゼに士官した。そのなかではカザロフ少佐、ダントン少佐が傑出している。だが、これでもまだ戦乱の収まる様子はない。

ソル星系の制圧の間に、我々の同盟国だったオリンピア連邦が、セレスティア共和国の攻撃を受けて滅亡してしまったのだ。もともとは、フリーダムトーチ共和国とオリンピアの国境での戦いだったのだが、地球連邦軍と我々がアルファケンタウリから去ったことで、セレスティア共和国は同じ改革勢力であるフリーダムトーチの支援に全力を割いたらしく、オリンピアはあっという間に滅亡してしまった。

524年25期

ブラウローゼ公国はイザナミ皇国と再同盟。
アルファケンタウリ「南部」では、イザナミ皇国とアプサラス自治区が全面戦争を繰り広げていたが、ついにイザナミ側から我が国を引き入れるために交渉してきた。アルファケンタウリでのイザナミ vs アプサラスセレスティア、フリーダムトーチの戦闘に関与したかった我々にとっては、渡りに舟だ。各国が複雑な同盟・対立関係にあるため、この戦争を『諸同盟国戦争』と呼ぶ。

我々はイザナミ皇国と同盟し、アプサラスと開戦した。
かつてのオリンピア連邦の「北」半分はセレスティア共和国がすでに領有していたが、南半分はイザナミアプサラスの間で取り合いとなっており、我々の最初の目的もこの星々の確保だった。

32期

フリーダムトーチ共和国軍のフリードソン元帥は名将だ。

我々はセレスティア共和国とは友好関係にあったが、フリーダムトーチ共和国とは開戦状態にあった。フリーダムトーチの前線と我々は遠く隔たっていたため、実際に彼らと戦ったことがなかったので、すっかり忘れていた。そのため、無人になっていたオリンピア南部と復興なった惑星イリアスは、セレスティア領から出撃したフリーダムトーチ軍にあっけなく制圧されてしまった。

だが、我々はまずはアプサラス自治区を打倒せねば。

36期

私は、ブリジット・クロフォード少将。今日から、第五艦隊提督となる。
同時に、第六艦隊、第七艦隊も新設され、ハルトヴィック少将とアクィナス少将がそれぞれの指揮官となった。ハルトヴィックはともかく、アクィナスは提督となることを嫌がっていたが、我が軍はどうも人気がないらしく、はっきりいって平凡としか思えない彼でさえも、目立った欠点がなく、少将という位階にいる以上は艦隊司令官として抜擢するしかないようだ。

惑星アプサラスは我々の支配下にあるが、セレスティア共和国との対決はもはや避けられない。
我々は『西方の城門』作戦にでることとした。四個艦隊がアガスティアから、三個艦隊がイザナミシルクロードから進撃して、旧オリンピア連邦にいるセレスティア艦隊とフリーダムトーチ共和国を制圧するのだ。

38期

惑星アガスティア・ファーランド間の宙域で、セレスティア共和国ナーデル提督の大艦隊と会戦(『第八次ファーランド防衛戦』)。私は若輩者ながら、提督として四個艦隊を指揮し、これに圧勝した。

43期

惑星ファーランド、惑星プロメテウス攻略。セレスティア共和国の抵抗は次第に弱まってきた。ノイビル、アイゼンブルグの両名が、中将へ昇進した。

47期

『西方の城門』作戦終了。フリーダムトーチ共和国滅亡。彼らの惑星には、時代遅れの防衛衛星Ⅱが配備されていた。

49期

イザナミ皇国が同盟を破棄してきた。彼らはセレスティアと戦う我々の背後をついてきた。
だが、彼らの心境も分からなくはない。我々は、あまりに戦いをしすぎている。今期も、公王はイリアス記念式典に出席しなかった。たとえイリアスの復興自体に携わったとしても、それで赦される問題でもないだろう。

しかし、イザナミ皇国の艦隊と経済は、長く続いたアプサラスセレスティア、フリーダムトーチとの戦いで疲弊しきっており、シルクロード要塞の防衛時点で、すでに欠員のある状態だった。

525年3期

ラグナロック』作戦が開始された。ブラウローゼ公国は4個艦隊をセレスタイト星系へ、4個艦隊をイザナギ星系へ進発させた。私はイザナギ星系へ進む艦隊の提督として転戦することになるだろうが、すでにセレスティアにも、イザナミにも組織的な抵抗力がない。この戦いはすぐに終わるだろう。

525年15期

既知宇宙統一。

525年25期

反乱軍が全土で決起した。首魁は、直前までに抵抗を続けていた某国の首班であり、長らく続いた戦争で常に理想主義者であった彼は、多くの支持者に支えられ、全星系の過半が反乱軍についた。経済力でいえば、アガスティアアプサラスイリアスなど主要な拠点を押さえた反乱軍の方が我々を上回った。

だが、もっと驚くべき事に、私たちブラウローゼ公国軍の士官には一人の欠員もなかった。たいした忠誠心だ。もっとも、反乱軍に迎えられるほど、人望のある人間がいないだけかもしれないが。すぐに従来通りの8艦隊が再編され、我々はゲートキーパー要塞の攻略へ向かった。

30期

反乱軍の戦力は圧倒的だ。六個艦隊400隻。しかも将官の質も良い。経済力的にも、天文学的な資金を彼らは押さえている。

ベッケンバウアー元帥は、アルファケンタウリの東半分を使って、彼らと拠点の取り合い(反乱艦隊がいない惑星を制圧し、反乱軍が迫ってきたらすぐに別の惑星へ進発する)をする焦土戦術『メリーゴーラウンド』作戦を立案していた。この作戦は、この後、ロゼッタ星系旧メガリ自治区まで範囲を拡張し、各所で我々と反乱軍が同じ星をとったり、とられたりを繰り返すことになった。

だが、私たちの目的は惑星の占領ではない。反乱軍のシンボル、惑星アースの攻略のみだ。

525年49期

反乱軍は寸前で我々の意図に気がつき、ロゼッタにいた大艦隊を解散、ソル星系で再編してきたが、すでに手遅れだった。我々は、4個艦隊でアースへ侵攻、必死に防衛する青い艦隊を屠り、反乱軍司令部からの降伏電文を受信した。だが、もうそれも遅い。『ファイナルコード』作戦が、今まさに実行されつつある。ゆっくりと、終焉が近づいてくる。

……この日記は、ここで終わりになる。地には平和を、星には愛を。

ブラウローゼ公国第四艦隊提督、ブリジット=クロフォード少将

Soft Ciercle "Serendipity"