パーマー・エルドリッチの三つの聖痕

ディックの小説はやはり読みにくい。
帰宅途中に読んでいて寝たこと三回。なんで、こう読んでいて眠くなるんだろう。

後書きによると、1960年代に書かれた本書は、麻薬とバービー人形ブームがアイデアのきっかけだったらしいが、今読むとネットゲーム(あるいはゲームorネット全般)とRMTの話として読める。

加熱しつつある地球と、極寒で不毛の植民地、前途に何の希望もない世界で、ひたすら仮想現実世界がもたらす『もっとましな人生』に耽溺しつづける大人たち。星々の向こうから帰ってきた男、パーマー・エルドリッチがもたらしたのは、一人一人に応じた『もっと素晴らしい体験』であるはずだったのだが……それを実際に経験した人間にまっていたのは、ログアウトしたハズなのに、まだ仮想現実の中にいる、といういつまでたっても覚めない仮想現実だった。

『もっとましな人生』を楽しむためには、それ専用の車だのバーベキューセットだのをオプションとして買いそろえないといけない、というあたりが非常にアバターっぽく思えた。

直前に読んでいた『ブレイブストーリー』は、少年が仮想現実世界での冒険を経て、成長して帰ってくる、という物語であったので、本作での「十代の頃に戻ったような」世界でひたすら不倫だの青春だのに明け暮れる大人たちという対比が面白かったのだと思う。

とちゅうで三度も寝たように、小説として単独で読むのは辛い。まだ同じようなストーリーの『ユービック』のほうが読みやすかった。