DQⅠ編・後半

閑話休題アレフガルド最初のバブル


竜王はかつてのゾーマの戦略にならって、ルプガナから入港する商船を無差別に攻撃した。
*1


この結果、外国産の物資が輸入できなくなったため、全体的にアイテムの価格が高騰した。
とくに、キメラの翼は外世界では安価に供給されていた*2が、アレフガルドではラルス王家の統治下でキメラの養殖技術が失われており、マイラ近辺で野生化したキメラを狩猟して手に入れる他に入手方法がなかった。
こうして採取された「キメラのつばさ」は、養殖物にくらべて品質が悪く、ラダトーム城に戻ることしかできなかったが、元来需要のある品物だったため、盛んに転売されて投機の対象となり、最大で従来の流通価格の三倍まで高騰した。
これが史上初のバブルであって、「キメラのつばさ」バブルとして多くの経済学者に研究されていることは、いうまでもない。


実際には、ロトの子孫が沼地の洞窟を奪還したころには、竜王軍は竜王島の守りに海上戦力を割くようになったため、通商破壊活動は下火になり、キメラのつばさは再び大量に輸入されるようになって、たちまちキメラのつばさの価格は暴落した。
マイラでは一時期「キメラのつばさ成金」が生まれたが、その後の暴落でその多くが私財を失った。これが直接の原因で、竜王の乱後にマイラの村は没落して地図にものらない小さな集落になってしまった。

竜王島条約


ロトの子孫はついにリムルダール島の南端、雨のほこらに籠もる竜王軍を撃破する。これによって、後顧の憂いなく竜王の島へ渡れるようになった。
こうして、ついにロトの子孫は兵士と魔法使いを200人ほど引き連れ、竜王の城へ進撃した。


だが、ロトの子孫はこのころすでに竜王との講和を考えていた。
自身は確かにラルス王のために傭兵部隊を率いて功績をあげているが、この戦争が終わって竜王という脅威がなくなってしまったら、狡兎死して走狗煮らることになるのは分かり切っている。*3
ローラ姫から宮廷の動静を知らされていたことも、その思いを強くさせた。


このため、ロトの子孫は数日の内に竜王城の地上部分を占領して、ゾーマ城の遺跡である地下壕に籠もる竜王軍と戦いつつも、その一方では竜王軍に知己があったローラ姫を仲介役に竜王との交渉を続け、独断で、竜王の支配権を竜王島に限ること、ラルス王家へ臣従して朝貢すること、ドラゴンなどの強力なモンスターを増やさないことを条件に、竜王と講和してしまう。
講和の証に、ロトの子孫は自分の使っていた剣を竜王に譲り渡した。


この講和は、戦争に飽いていた民衆からは熱狂的に歓迎されたが、ラダトームのラルス王と官僚たちは当初はロトの子孫の裏切りと受け取った。
ロトの子孫が、竜王の提示したアレフガルドの半分、すなわちラルス王家の支配地域を与えるという条件に同意して、竜王と手を組んだという流言飛語まで発生した。
この噂はその後も根強くラダトームに残り、ロトの子孫が冗談まじりに「講和を結ぶ前日にリムルダールでそんな夢を見たが、夢の話を本気にされるとは思わなかった」と語ったという伝説が残っている。


ともあれ、竜王の乱は終わった。
ラルフ王家と竜王はともに健在であったが、アレフガルド全土は大きな被害を受け、国威は大きく衰えた。

*1:もともと、ガライの街はルプガナとの交易で栄えた港町だったが、やってくる舟がなくなったことで急速に寂びれた。竜王との講和が成立したあとで、外国船に対する無差別攻撃はなくなったが、その代わりラダトームに直接外国船が入るようになったことで、ガライの役割は失われてしまう。

*2:テパで原料となるキメラを養殖し、ベラヌールで加工してルプガナで売る三角貿易が行われていた。このため、DQⅡではキメラはモンスターとして登場しない

*3:17世紀に30年戦争において、神聖ローマ帝国側の英雄として知られる傭兵隊長ヴァレンシュタインが、戦後あっけなく暗殺されたように