黒と茶の幻想 (下)

黒と茶の幻想 (下) (講談社文庫)

黒と茶の幻想 (下) (講談社文庫)

後半四分の三を読み終えたところ。
過去に20編近く読んできた経験からすると恩田陸の小説が一番完成されているのは、たいていこの辺りだ。と、いつも読み終えてから思う。この後のまとめの所で、全部台無しにしてくれるのだ。それが時としてすがすがしくもあるが、さて。

四人の旅人の中で、一章ごとに視点が変わっていく一人称小説、後編。
『一見茫洋として見えて、親切で紳士的だが、実は薄情で優しくない』蒔生の性格付けは、はっきり自分に似ているので、読んでいて非常に心痛むときがあった。親切さというのは反射神経的なものだが、それは優しさが伴われているものでは必ずしもないのだ。まー、おいらは小心者なので、こんなにたいしたタマではないが、基本線は似ていると思う。ずぶずぶと自滅していく自分が結構好きだったりするしな。

六番目の小夜子」から転々と繋がる恩田陸の小説群では、自己演出過剰で秀才だが極めて脆い彰彦と、茫洋として抱擁力のある蒔生のような男性が常に登場してきては居た。だが、「蒔生タイプ」の登場人物の内面にスポットライトを当てて書かれたのは初めて読んだ気がする。

この小説の教訓は、大人は嘘をつき罵り合っても、次の日には同じ食卓を囲むことができる、ということなんだろうか。